カワウソ祭です! 飲み会の誘いがあればなるべく何でも参加する主義です。
よくわからない飲み会でも、顔さえ出せば誰かと話せるタイミングがやってきます。
そこから思わぬ人と知り合えたり、仲良くなったり、まぁその場限りだったりして、結局帰る頃には愉快になっています。
そうやってふわふわと増えた友達もいれば、稲妻が落ちてくるかのように単身のインパクトで人生に登場してくる人もいます。
今回のお話|生命力と怒りの神カヤさまの話
カヤさまに初めて会った日のことは今でも鮮明に覚えています。
ハンサムな顔立ちに容赦なく濃いメイクを乗せて、ダークブラウンの長い髪から大ぶりのアクセサリーを覗かせ、ポケットに両手を突っ込んで、大股でこちらに歩いてきました。
ジャーン! と現れたカヤさまは、待ち合わせ場所のみんなを見渡し、各々が名乗ったり、挨拶したり、初対面のしぐさを交わすのを全無視して「ねぇ! アボカド食べたくない?」と言いました。
初対面から最高のインパクト。 カワウソはもう絶対にカヤさまとアボカドが食べたいと思い、実際にみんなで大鉢へ山盛りになったアボカド料理を食べました。
なんの目的で集まった会だったのかは忘れましたが、カヤさまの見事な初登場は、強く脳裏に焼きつきました。 |
圧倒的な強さがもたらす自由
カヤさまは見た目の通り気が強く、酒も強く、基本的に単独行動で、特に女とは群れません。
誰かが他人の悪口を言いだしたりすると、「その話おもしろくない!」とぶった切ります(でも女からめちゃくちゃ人気がある)。
かといって気難しいわけではなく、面白そうな誘いにはフットワークが軽く、朝まで一緒に遊んでくれます。
ちょくちょく飲んだり、友達を紹介したりと、カヤさまと親交を深めていたある日。
飲み友達のひとりの男に「ちょっと話を聞いて」と呼び出されました。
しばしの沈黙の後、何かと思えば「カヤ様に抱かれちゃった……」と言うのです。
曰く、数人で飲んだ帰りに2人になったので、2軒め、3軒目と飲み歩いていたら、最終的に「抱かれた」と。
えっ? 同意ナシで? と聞くと、彼は「いや同意の上だけど、あの、本当にすごくて……“抱かれた”としか言いようがないんだよ」と。
要はカヤさまとの一晩があまりにすごかったので、心に留めきれず誰かに打ち明けたかったらしいのです。アホか!!!
男友達は打ちひしがれながら「勉強になった」と締め、カワウソは爆笑してしまいました。
カヤさまは彼を狙っていたわけではなく、帰りがけのデザートに摘まんだだけのようでした。
シングル同士のことなので別に悪事ではありません。
それにしても、いわゆる「ビッチ」な振る舞いかもしれないのに、なぜこうも尊敬の気持ちが湧いてくるのでしょう。
自分の輝きを他人に隠させない
インドのヒンドゥー教に「カーリー」という強くて恐ろしい女神様がいます。
怒りで全身が青黒く染まっていて、暴れ出すと止めるすべがなく、夫のシヴァ神が自ら地面に横たわり踏まれてやっと正気に戻るというほど。
同じく、ギリシャ神話の「ヘラ」もよく怒ります。
夫のゼウスがしょっちゅう浮気するので、愛人や隠し子をしばき倒すのです(ゼウスに怒って!)。
日本の古事記では、イザナミが黄泉の国で日和った夫のイザナギに激怒します。
アマテラスも弟がめちゃくちゃするのに怒って天岩戸にひきこもります。
何にせよ、女神といえば世界中で結構怒っているものです。
カワウソがカヤさまを尊敬してしまうのは、欲望に正直で、瞬間的に怒れるタイプで、それでも愛されるキャラクターなので、神話の女神っぽいところにあります。
以前カヤさまに「この人と付き合うことになったよ」と恋人を紹介されました。
ちょっと有名なイケてる起業家で、なんと逆ナンで知り合ったそうです。
カヤさまは堂々と「彼が恋人」と紹介をしますが、なかば芸能人のような彼のほうは、あまり表立って恋人を紹介しません。
もちろんカヤさまはその扱いが不服です。
ある日「私は連れて歩いて恥ずかしい女じゃないでしょ!」と詰め寄り、恋人が涙ぐむまで怒ったそうです。
それ以降は大切にエスコートされ、オフィシャルな恋人として振る舞えるようになった……のも束の間、やはり「私の扱いがなっていない」として起業家の恋人は振られていました。
「怒りの守護神」を心の中にまつる
日常生活では「怒り」の量が少ない方が暮らしやすいです。
とはいえ完全に不要なものでもなく、生きていれば時々「ここはちゃんと怒るべきだ」というタイミングがやってきます。
でも、普段は怒りが発生しにくい頭の配線にしているわけで、急に切り替えるのは難しく、特に瞬間的に怒るのは練習がいります。
さらに、自分で自分のことを深く肯定していないと、ひどいことを言われたり、されたりしても咄嗟に怒れないことがあります。
カワウソは時々「しまった、怒るべきだった」と思うことがあります。
すぐその場で怒りを示すべきだったのに、タイミングを逃したとき、金色のブーツを履いて真っ赤なジャケットを着て、めちゃくちゃ怒っているカヤさまのイメージが浮かびます。
彼女なら間髪入れず「なめてんの?」と言ったはず。何にも遠慮せず、忖度(そんたく)しないはず。
そう思うと、ぬかりなく気を強く構えていられる気がします。
カヤさまは自尊心があり、自分なりの正義があるから、ちゃんと怒る。
欲望に正直だから、他人でも友達でも恋人でも、誰かの事情のために自分を隠すことはしません。
カワウソはカヤさまのことを、心の中で勝手に守り神にしています。
彼女のパワフルで美しい魂のかけらをこっそりと借りて、いつも尊敬して参考にしているのです。
(カワウソ祭/ライター)
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