カワウソ祭です! 本連載では月に2回開いている「スナックカワウソ」での出会いや、飲み仲間のエピソードから、カワウソが思う最高な女性をモデルにしたお話しを紹介します。
また少しのあいだ連続して更新が続きますので、どうぞお付き合いください。
面白い人間に男も女もないと言っちゃあそれまでなんですが、まぁイイ女がいるんですよ、この世には……。
今回のお話|白馬に乗ったお姉様ミナさんの話
全国的に有名な大学を出て、世界的に有名な企業に就職し、10年単位で堅実に勤め続けているミナさん。
文化芸術に明るく、長く続けられる趣味があり、遠方のイベントにも身軽に参加する。
どこからどう見ても良い人。絶対モテる。モテる要素しかない人物に見えます。
……が、同じプロフィールでも男女で魅力に写る要素が違うのか、長らくロクなモテに恵まれなかったのがミナさんです。 |
カワウソとは少し年が離れていますが、なんの気兼ねもなく気さくに遊んでくれて、時には仕事のアドバイスや仲介役も買ってくれる最高のお姉さん。
こんな! こんなにも良い人なのに!! なんでロクな恋愛に恵まれないんだ!!!! と一緒に酒を煽って嘆いてきたのですが、しばらく会えずにいたある日「結婚したよ!」と連絡をもらいました。
働けど働けど、バリキャリの暮らしモテに遠ざかり……
カワウソとミナさんの出会いは、お互いが行きつけにしていた飾り気のないBARでした。
「飾り気のない」も褒めすぎなくらいで、マスターの家に遊びにきたようなラフなお店です。
怪しい立地、暗い照明、雑で美味しいつまみ、安くてシンプルなお酒のラインナップ。
ある人は怖がり、ある人は笑い、魑魅魍魎(ちみもうりょう)やカワウソが寄ってくる……。
温厚で下品なマスターの人柄と、変な店構えが大好きで、人生で初めての行きつけになった店でした。
男女比や年齢層はてんでバラバラで、お客さん同士がワイワイ盛り上がる雰囲気でもなく、話し込むこともあれば黙って1人で飲む人もいました。
そんな店でミナさんと知り合ったので、最初は彼女の輝くキャリアを想像もせず、なんでも知ってる面白いお姉さんだなぁと思ったのを覚えています。
あちこちを飲み歩くうち、お互いについて詳しく話す機会を得て、ミナさんの詳しいプロフィールを聞いたときは「なんでそんな大企業の人がこんな怪しい店に!?」とイスから転げ落ちそうになりました。
さらに、彼女の波乱万丈な恋愛歴を聞くにつれ「もしかして、普通の男の人は『俺より稼いでる』と思ってミナさんから引いて、面白さが強みの人も『俺よりなんでも知ってる』と引いて、ただ変な人やダメな人がすり寄って来ちゃうのでは……」という仮説に達し、涙で塩気の増したビールを注ぎ合ったのです。
カウンターの端から端へ
さて、それから10年ほど経ち、ミナさんが「結婚したよ!」と言った相手は、例の怪しいBARの常連仲間だった“ハカセ”でした。
いつもカウンターの端の席へ猫背気味に座り、もじゃもじゃ頭に分厚いメガネでにやにやしている風貌そのままのあだ名が付いたハカセ。
昔からの顔見知りですが、ミナさんとそこまで仲が良い様子ではなかったので、ビックリして「なにがあったんですか⁈」と聞くと、経緯はこうでした。
「ハカセは結構長いこと私のことを見てくれてたんだって。前に私が彼氏に振られて荒れてた時期のこと覚えてる? その時に、あのBARで呑んだくれてたら、ハカセが『ぼ、ぼぼ、ぼぼぼ』って言い出したんだよ。何かと思ったら『ぼぼ、ぼ、僕どうですか!』だって」
ハカセも実はミナさんに引けを取らず立派な人で、本当の「博士」予備軍なのです。有名な大学の院生で、哲学や芸術をコツコツと研究し続けています。
「ハカセは結構年下だけど、私に『平均寿命は女性の方が10年くらい長いから、僕ぐらい年下の方が丁度よく同じくらいに死ぬはずです』って変に自信満々で言うんだよ。いい殺し文句じゃない? 奥手なくせに年上を落とすのがうまいよ」
ずっと恋愛に非積極的な人生を送っていた大人しい彼も、カウンターで1人お酒を飲み、その場の人たちと他愛のない話をするのは楽しめたようです。
そして常連となり、年上のミナさんに惚れ込み、チャンスを狙い、勇気を出して「ぼぼぼ!」と叫んだ……。
何年タイミングを見計らったのかは彼のみぞ知るところですが、なんと可愛い男でしょう。
これを胸熱と呼ばずしてなんと呼びましょう⁉︎
白馬に乗ったお姉様
2人が付き合い始めると、結婚まではスムーズだったそう。
ハカセより10歳年上のミナさんは社会人パワーこと貯金を解放して一軒家を購入し、猫と夫を搬入。
学問に忙しいハカセには主夫を任せる……わけではなく「少しでも稼ぐ力をつけようね」とアルバイトを始めるように指導。
さらには秀才の息子をまだ大切に育てたい義理のお母さんにも「鬼嫁がきましたよ!」と指導を入れまくっているそうな。
最強。しばらく会わない間に、ミナさんは最強になっていました。
「飲み屋の常連仲間」時代が長かったので、いまだにミナさんとハカセが並んで歩いてくるのを見ると笑ってしまいますが、素晴らしい組み合わせのカップルです。
学者とバリキャリ。文化と芸術を愛し、同じ店に通い、長くお互いを知っている。
面白くて働き者の女性がモテないのは変だと思うし、学問を探求する男性が結婚できないのも変です。
期せずしてミナさんはハカセにとって「白馬に乗った王子様」ならぬ「白馬に乗ったお姉様」だったわけですが、こんな組み合わせが当たり前の時代がもうすぐにでも来るべきなんじゃないか? と思うのです。
スナックカワウソでも「出会いがない」と悩む男女を見ることが多く、そんな人たちがスムーズにマッチングできないことを歯がゆく感じます。
出会いの場に種類が増えているのは確かですが、カワウソはどうしても最初に「行きつけのBARがあるといいよ」と勧めてしまいます。
適当に言っているわけではなく、どこの誰だか知らない人と、他愛もない話をすることで、打算のない相性が見えたりします。
ミナさんとハカセのようなカップルの例はいくつもあって、また素敵な組み合わせが多いのです。
世の中には過去のミナさんみたいな人が沢山いるんじゃないかと思います。そんな人がみんな幸せになって、最強になってほしいのです。
(カワウソ祭/ライター)
第1回
スナックカワウソの最高な夜#1「カッコいいナナさんの話」
第2回
スナックカワウソの最高な夜#2「強い乙女なユキさんの話」
第3回
スナックカワウソの最高な夜#3「マジでモテるアミちゃんの話」
第4回
スナックカワウソの最高な夜#4「ずっと独身で生きたエイコさんの話」
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