カワウソ祭です! 前回はマジでモテるアミちゃんの話でした。短期連載の最終回となる今回は、ある女性をモデルに恋愛とか結婚とかのその先、最高な人生について考えます。
ずっと独身でいるつもり?
2013年に出版された雨宮まみさんの『ずっと独身でいるつもり?』というエッセイ本があります。 単なる恋愛指南書ではなく、現代の女性として生きることの難しさや、社会と個人の関わり、多くの人が抱える葛藤について読みやすくかつ切実に綴られた名著です。
この本を原案として、おかざき真里さんが同タイトルでコミカライズした作品があるのですが、こちらは更にシンプルでクリティカルにテーマを掘り下げています。
第1話1ページめのモノローグで、主人公のまみさんは“私が孤独死よりも怖いのは「一人で生きること」です”と語り、自活しているにも関わらず「頼れる人もいなくてかわいそうだ」と言われてしまう現状を振り返って、“咲いてみたら「かわいそう」と言われる花”と表現します。
カワウソは働くのが好きで、遊ぶのも好きで、友達も少なくないし、恋愛もまぁまぁ楽しくやってこれました。 それでもかつて『ずっと独身でいるつもり?』にあるような不安や苦しさを感じたことがあります。 今は結婚していますが、この生活が一生続く保証は全くないし、一人で生きやすい世の中だとも思えません。
しかし、かつて本当に人生すべてのお手本となるような女性がいたので、もし一生を独身で過ごすことになったらどんな風に生きればいいのか、なんとなく知っているのです。 |
学業、仕事、家庭、そして女性をこなす
エイコさんは高校時代に突然父親を亡くしました。
ずっと専業主婦でおっとりとした母親に大黒柱の代わりは無理だろう、弟や妹はまだ幼く、誰のことも頼れません。
エイコさんはあっという間に学校を辞め、美容師の専門学校に入りました。
元から頭が良く器用だったので、専門学校を卒業した後に務めた美容室では着々と人気を得て、独立。
自宅を改装してお店をはじめると、ここも人気が出たので、ついには大都市でスタッフを複数抱えた美容室を持つようになりました。
エイコさんはけっこうモテるほうで、時には結婚の話も持ちかけられましたが、とにかく忙しいし、養っている家族が多いので、お互いに負担だろうと思ってどの話も断りました。
いっぱしの経営者として家族を養い、弟妹を進学させ、スタッフを食べさせ、時にはトラブルの相談に乗ったり、甥や姪にまで援助したりと、様々に働き続けました。
定年の頃合いになると、お店はたたんで地元に戻り、新しい仕事を始めました。
美容師だったので着付けなども得意で、色々な働き口があったのです。
真っ白な猫の兄弟を飼い、季節行事ごとに家を綺麗に飾り付け、書画をたしなみ、毎晩同じ銘柄の赤ワインをグラスで数杯飲みました。
親族や仕事仲間がよく家を訪れるので、やっぱり忙しい毎日でした。
あるとき、エイコさんの甥夫婦とその子供が家を訪ねてきました。
驚いたことに、しばらく一緒に住ませてくれないかというのです。
家族を何人も養ってきたとはいえ、小さな子供と同じ家に住むのは久しぶりのこと。
しかしエイコさんは彼らを受け入れ、同居生活が始まりました。
ちょっと変わった家族の暮らし
エイコさんはカワウソの大叔母にあたります。
一緒に住み始めた当時、いつも怖い顔をしていて、お箸の持ち方だの好き嫌いだのしつけに厳しく、機嫌の悪い日もありました。
彼女の部屋には立ち入りを禁じられていましたが、覗いてみると深い赤の絨毯が敷いてあり、ラタンの洒落たカウチを置き、壁には自作の書画が飾られていました。
夜になると大人たちはカワウソを2階に寝かせて、1階で晩酌を始めます。
どうしてもそれに混ざりたくて、怒られてもなんだかんだと理由をつけて1階に降りていたのを覚えています。
カワウソは当時一人っ子だったので、それまで厳しい大人に会ったことがありませんでした。
エイコさんはいつもビシッと気難しいので、時には泣かされることもありました。
それでも不思議なことに、カワウソは彼女が大好きでした。エイコさんの古い家も、猫たちも。
エイコさんは知らない話をたくさんしてくれて、本を山ほど読ませてくれて、いつも心配してくれて、たくさんの時間をかけ、手をかけてくれました。
人を怒るのはエネルギーがいるので、無視して放っておく方が楽だったはず。
彼女なりにとても真面目に子育てをしてくれたのです。
その影響か、カワウソは今でも正しく厳しい人が好きです。怖いと思う以上に、懐かしさのような親しみと尊敬を感じます。
もし1人で生きていくことになったら
エイコさんとの同居は2年ほどで終わってしまいましたが、その後も頻繁に彼女を訪ねて、雑談に相談事や悩み事まで、色々と話を聞いてもらいました。
あるとき恋愛の話になり、エイコさんが元カレの思い出を聞かせてくれたことがありました。
その人は仕事の出稼ぎで地元を離れていて、帰ってきた日は車に荷物をいっぱい積んだまま、まっすぐエイコさんの元へきて、窓の下から「おーい、エイコちゃん、おーい!」と大声で呼んでくれたというのです。
その話をしてくれたとき、エイコさんは70歳くらい。
激動の人生を振り返って、一番素敵な恋愛の思い出が「おーい、エイコちゃん!」の瞬間だというのは、すごく本質的だなぁと思ったのを覚えています。
エイコさんは体調を崩したことをきっかけに、1年ほど入退院を繰り返し、80歳で亡くなりました。
最初の入院のとき、叔母と母、カワウソが付き添っていたので、看護婦さんに「どなたかがエイコさんの子供さんですか?」と確認され、カワウソは思わず「みんなそうです」と口走ったのです。
みんな、本当に彼女に助けられ、育ててもらいました。
エイコさんとの関係があったおかげで、もしいつか一人に戻って、一生独身で生きていくことになっても、それがそんなに不幸なことだとは思いません。
彼女にならって、誰かを助けて、人を育てるような生き方をすればいいと知っているから。
もちろん、その相手は血の繋がった親類だけでなく、仕事に関わる仲間でも、友達でも、赤の他人でもいい。笑顔で優しく触れ合わなくてもいい。
ぶっきらぼうでも、誰かを愛して助けていれば、自分の元へ「おーい!」と誰かが訪ねてくるかもしれない。
この連載では最高な女性について書いてきましたが、最高な人間は数限りなくいるので、これからも彼らを見守って学んでいきたいです。
(カワウソ祭/ライター)
第1回
スナックカワウソの最高な夜#1「カッコいいナナさんの話」
第2回
スナックカワウソの最高な夜#2「強い乙女なユキさんの話」
第3回
スナックカワウソの最高な夜#3「マジでモテるアミちゃんの話」
【関連リンク】
■出張マジレスホロスコープ#3「人生が空っぽだと感じます」
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