カワウソ祭です! 前回は強くてカワイイ乙女のユキさんの話でした。今回はちょこっと趣向を変えて、とある女友達についての思い出話を聞いてください……。
今回のお話|マジでモテるアミちゃんの話
かわいそうな美人をテーマにして話題を呼んだ、東村アキコさんの『主に泣いてます』という漫画があります。 この漫画では、主人公の紺野泉さんがあまりに絶世の美女であるがゆえに、仕事も私生活も普通に送ることができず、苦しみの人生を送っています。
かなり突飛な設定ながら、キレの良いギャグとテンポで進行するので楽しく読める漫画なのですが、カワウソはいかんせん頭に女友達の「アミちゃん」がよぎって落ち着きませんでした。
アミちゃんは、自分の望みに関わらずものすごくモテる人。そして、誰かの「運命の人」になりやすい人なのです。まさに、『主に泣いてます』で描かれる主人公のようなカリスマを持ち、嵐のような生活を送ってきました。
今回は、カリスマ級ではなくても、誰かにとって特別な人になる「モテの極意」を考えてみました。 |
君は本当にモテる人を見たことがあるか
カワウソとアミちゃんとの出会いは10代にまで遡ります。
個性的な顔立ちに印象的な瞳、真っ黒の髪。細身で、気取らないけど似合う服を着ていて、音楽などの趣味が抜群にすてき。
どんな誘いにも興味深そうに付き合ってくれて、いつまでも一緒に話しこんでくれる。
タレントやアイドルのように大勢から好まれるタイプではないけれど、刺さる人にはメチャクチャ刺さる女の子でした。
彼女と知り合って衝撃的だったのは、イベントフラグの数が違うことです。
一緒にいると道ゆく人や隣り合った人がとにかく話しかけてくる、どこでもにこやかに迎えられ親切にされる、挙げ句の果てには空に虹がかかる……。
カワウソが1人でいる時にはありえない出来事の数々。世間が見せる表情は人によって違うという真理との出会いでした。
しかし、いいことばかりではないらしく、失礼な口説き方や痴漢まがいのナンパにあったとか、印象が強いせいか万引き犯に間違われたとか、災難にも巻き込まれるようでした。
それでも当人は誰のことも悪く言わず「ビックリした」と笑うだけ。
失礼ではなくても、作品のモデルになってほしいとか、タレントにならないかとか、ダンサーはどうだとか、弟子になれとか、とにかく好きだとか、老若男女を問わず彼女に運命を感じた人から頻繁に口説かれるらしいのです。
適当に声をかけたのなら、容易に引き下がれます。
しかし「運命」を感じてしまった人たちは、みんな必死で食い下がります。
彼女も真面目に応対するので、余計に「やっぱりこの人は素晴らしい」と印象がつき、時には道端で数時間も説得されるのだとか……。
全自動で猛烈、コントロールできない求心力
『主に泣いてます』の泉さんの場合、凄まじい美貌に惹きつけられた人が彼女の性格を無視して、一方的にのめり込んでいきます。
アミちゃんは、おそらく彼女の個性や人となりも込みで「こんな人は他にいない、運命だ」と、深刻に惚れ込まれてしまう。
誰かの「運命の人」になるのって、嬉しいことでもある一方、相当な重荷です。
それを受け入れられるキャパだって、普通の人はそう多くないのではないでしょうか。
アミちゃんはしょっちゅうその重荷をプレゼントされるのです。
1人ひとりを無碍にせず、丁寧に向き合う姿は本当に偉いと思いましたが、同時にとても気の毒で、しかもそう簡単に改善できない問題だと感じ、カワウソは心配でした。
何年経っても衰えを知らないモテの力
お気づきかと思いますが、カワウソ自身もアミちゃんの重いファンです。
共に過ごした学生時代は彼女から強い影響を受け、大好きで仕方がありませんでした。
社会人になると会う機会も減り、お互いに居場所をみつけ、家族もできました。
人を惹きつける魔法の粉をふりまく妖精のようだったアミちゃんも、大人になると粉が減って、人間程度の求心力に落ち着いた気がしていたのです。
しかし、そんなある日のこと。好きなミュージシャンの新曲を聴いていると、妙なことが起こりました。
なんとなく、どうしても、歌詞に出てくる女性がアミちゃんに思えて仕方がないのです。いやいや、まさか。こんな女の子は日本中にいくらでもいるんだろう。
いや、でもヤツは「この人を歌にしたい」と思わせる女……。
そう思って本人に確認すると「ウワー! なんでわかったの?」との回答。
なんと、本当に彼女をモデルにした曲だったのです。
ミュージシャンとは特にやましい関係ではなく、たまたま知り合って仲がいいのだと……。そんなことあります? 偶然気に入って買った曲から登場する女、アミちゃん。粉、全然減ってない。一体なんなんだ君は。
誰かの「運命の人」になりたいとき
10代の頃から今まで、彼女はずっと同じようにモテ続けている。
容姿が恵まれていること以上に、その度を越したモテを招く要素は、果てしない「受け入れ力」にあると分析します。
いうなれば「器」です。誰かを愛したいとか、話を聞いてほしいとか、こんな表現がしたいとか、溢れる欲求を受け止めてくれる人。
さらには、空っぽの器でなく、ちゃんと自分の個性が入っていて、美しく混ぜ合わせてくれる人。
アミちゃんのモテ要素全てを真似することは不可能ですが、「器」としての振る舞いには大いに学ぶことができます。
今回の「アミちゃん」という偽名は、フランス語の「ami(恋人)」にちなんでいます。
同じくフランス語で有名な言葉に「Femme fatale(ファム・ファタール/運命の人)」があります。
この言葉は、谷崎潤一郎が『痴人の愛』で書いたナオミや、オスカー・ワイルドの書く『サロメ』のような、その美貌で男性を運命的な恋愛に引き込み、堕落させる悪女を指します。
カワウソはアミちゃんのようなモテかたをする女性について考えるとき、ファム・ファタールの概念についてモヤモヤと妄想するのです。
器に受け止められるうち、そこに満ちた色に染まり「どうして俺を堕落させたんだ!」「悪女め!」と慌てる男性。女性に悪意があるにしろ、ないにしろ、そんな運命的な関係はなかなかステキ。
せっかくなので、今後もアミちゃんにあやかり、キラキラの粉を浴びさせてもらおうと思っています。
(カワウソ祭/ライター)
第1回
スナックカワウソの最高な夜#1「カッコいいナナさんの話」
第2回
スナックカワウソの最高な夜#2「強い乙女なユキさんの話」
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